リハビリでよく使用される「脳トレプリント」。
「簡単すぎると、やる意味がないのでは?」そんな風に思われる方も多いかもしれません。でも実は、「ただ難しければ良い」というわけではないことが、さまざまな研究で分かってきています。
今回は、課題の難しさと本人の能力とのバランスが学習にどう関係するのか、研究の知見を紐解きながらご紹介します。
「ちょっと手応えがある」課題を選ぶ
まず、リハビリの難易度を考えるときに参考になる考え方の一つに、「チャレンジポイント」という枠組みがあります。
これは、課題の難しさと本人の能力とのバランスによって、学習のしやすさが変わるという考え方です。簡単すぎる課題では新たな学習が生まれにくい一方、難しすぎる課題では、課題に取り組むこと自体が難しくなる場合があります。
ただし、「何%正解できれば最適」という一律の基準があるわけではありません。本人の能力や課題の種類、リハビリの目的によって、適切な難易度は変わります。
「スラスラ解けるけれど、たまに立ち止まって考える」——そんな課題が、今の自分にとってちょうどよい難易度の一つの目安になるかもしれません。
(出典:Guadagnoli, M. A., & Lee, T. D., 2004)
「間違えない」ことから始める大切さ
一方で、特に記憶や注意の障害がある場合に大切にされているのが「エラーレス・ラーニング(誤りなき学習)」という手法です。
私たちは普段「失敗から学ぶ」ことも多いですが、特に重い記憶障害がある場合などでは、一度覚えた誤った情報を後から修正することが難しい場合があります。
その場合、何度も間違えながら進むよりも、最初から正しい答えを導きやすくすることで、正確な記憶や動作を身につけやすくなる場合があります。
そのため、最初は成功率100%に近い「確実に正解できるレベル」からスタートし、正確な記憶や動作だけを積み上げていくことが、結果として近道になることもあるのです。 (出典: Wilson, B. A., et al., 1994)
「夢中」になれるバランスが、継続のコツ
自主トレが続かない理由は、根気がないからではなく「難易度のミスマッチ」かもしれません。心理学には「フロー理論」という有名な考え方があります。
フロー理論では、課題の難しさと本人の技能のバランスが、集中して取り組みやすい状態と関連すると考えられています。
- 難しすぎる → 「できない、不安だ」という拒否感に。
- 簡単すぎる → 「つまらない、退屈だ」という刺激不足に。
「できた!」という達成感は、次もやってみようと思うきっかけになることがあります。
(出典: Csikszentmihalyi, M., 1990)
まとめ:その日の自分に合わせた「処方箋」を
これまでの考え方を踏まえると、自主トレプリントの難易度は、正答率だけで一律に決めるのではなく、課題の目的や本人の状態に合わせて調整することが大切です。
まずは「確実にできる」課題から
新しい課題に取り組むときや、正確な記憶・動作を身につけたいときは、まずは無理なく取り組める難易度から始めることが大切です。
「自分はできる」という感覚を持つことが、継続のきっかけになることもあります。
慣れてきたら、少しだけ負荷を加える
課題に慣れて、ほとんど考えずにできるようになったら、少しだけ難しい課題を試してみる方法があります。
「うーん、これはどっちかな?」と少し考える程度の課題に取り組むことで、新たな刺激を加えられる場合があります。
難しすぎるときは、難易度を下げる
問題を解くこと自体が難しくなったり、間違いが続いて答え方がわからなくなったりする場合は、課題の難易度を下げたり、ヒントを加えたりすることも大切です。
特に高次脳機能障害の方は、その日の体調や疲れ具合、覚醒レベルによって、同じ課題でも成績が大きく変わることがあります。
「今日はなんだか集中しにくいな」というときは、レベルを落として「確実にできること」から始める。調子がよいときは、少し難しい課題に挑戦してみる。
このように、その日の自分の状態に合わせて柔軟に調整することが、自主トレを無理なく続けるための大切なポイントです。
参考文献一覧
- Guadagnoli, M. A., & Lee, T. D. (2004). Challenge point: a framework for conceptualizing the effects of various practice conditions in motor learning. Journal of Motor Behavior.
- Wilson, B. A., et al. (1994). Errorless learning in the rehabilitation of memory impaired people. Neuropsychological Rehabilitation.
- Csikszentmihalyi, M. (1990). Flow: The Psychology of Optimal Experience. Harper & Row.
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