「脳トレで認知症予防!」 「毎日○分で脳が若返る!」
最近はスマホアプリやパズル、本など、いろいろな“脳トレ”を見かけます。 でも実際のところ、脳トレって本当に効果があるのでしょうか?
研究では、ある程度わかってきたこともありますが、まだ議論が続いている部分も少なくありません。今回は、現在の研究知見をもとに、「脳トレの効果」について整理してみます。
やった課題は、ちゃんと上達する
まず、多くの研究で一致していることがあります。 それは、「繰り返し練習した課題は上手くなる」ということです。
たとえば、毎日ナンプレをしていればナンプレを解くのは速くなるし、計算練習を続ければ計算もスムーズになります。これはスポーツや楽器の練習と同じですね。
「練習すれば、その課題は上手になる(Practice Makes Perfect)」 (出典:西田 裕紀子「認知トレーニングの有効性:システマティック・レビューの動向」, 2017年)
でも、“別の能力”まで伸びるの?
ここが脳トレ研究の一番大きなテーマです。 たとえば、「ゲームの点数は伸びた」としても、それが「日常生活での忘れ物が減る」「会話がスムーズになる」といった、生活全体への広い効果(遠転移)につながるのか?
残念ながら、これについては「十分な証拠はまだ少ない」と考える専門家が多いのが現状です。
「特定の訓練が、訓練を受けていない他の認知領域や日常生活の機能にまで広範な利益をもたらすという確固たる証拠は不足している」 (出典:Simons et al. “Do “Brain-Training” Programs Work?” 2016)
それでも期待されている研究はある
一方で、希望がないわけでもありません。 アメリカの有名な「ACTIVE試験」では、特定のトレーニングを受けたグループで、10年後の生活機能の維持に関連がみられた可能性が報告されています。
ただし、この研究も「認知症を予防した」と証明したわけではありません。あくまで、「特定の能力維持に関係した可能性がある」という慎重な解釈がなされています。
「スピード訓練を受けた群では、10年後の認知機能低下の抑制に一定の関連が見られた可能性がある」 (出典:Rebekah G. et al. “Ten-Year Effects of the ACTIVE Cognitive Training Trial”, 2014)
最近は「脳の貯金」という考え方も
最近の研究では、単純に「脳を鍛える」というより、“脳の余力を増やす”という考え方が重視されています。
これを「認知予備能(Cognitive Reserve)」と呼びます。 読書、会話、仕事、趣味、運動など、さまざまな刺激を受けることで、脳に“余裕(貯金)”を作っていくイメージです。そうすることで、加齢による変化があっても、その余力でカバーしやすくなる可能性があると考えられています。
実は、運動や会話もかなり重要
現在は、脳トレ単体よりも、もっと広い視点での生活習慣が重要視されています。
- 運動: 特に有酸素運動は、脳の血流を促す。
- 社会交流: 人との会話は、脳を広範囲に刺激する。
- 新しい学習: 外国語や楽器など、少し難しいことに挑戦する。
「運動や社会的な関わり、新しい知識の習得といった包括的なライフスタイルが、認知的な予備能を育む可能性がある」 (出典:Lancet Commission on Dementia prevention, intervention, and care, 2020)
結局、脳トレは意味あるの?
少なくとも、「全部ムダ」とまでは言えません。 好きなパズルに集中したり、達成感を得たりすることは、気分転換や生活のハリにもつながるからです。
ただ、「これだけで認知症を完全に防げる」と断言できるほどのデータも、まだ十分ではありません。
脳トレを楽しみつつ、「適度に体を動かす」「人と話す」「新しいことを学ぶ」。 こうした生活全体を大切にすることが、今のところ最も現実的な“脳の健康法”と言えそうです。
参考文献一覧
- Simons, D. J., et al. (2016). “Do “Brain-Training” Programs Work?”. Psychological Science in the Public Interest.
- Rebekah G. J., et al. (2014). “Ten-Year Effects of the ACTIVE Cognitive Training Trial”. Journal of Gerontology.
- Livingston, G., et al. (2020). “Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission”. The Lancet.
- 西田 裕紀子 (2017). 「高齢者の認知トレーニングの有効性:システマティック・レビューの動向から」. 老年心理学.


