計算プリントは認知リハビリにどう活用される?脳の働きと生活へのつなげ方

高次脳機能のリハビリにおける「計算プリント」の効果と向き合い方 STコラム

高次脳機能障害の認知リハビリテーションでは、計算プリントを使った課題が取り入れられることがあります。

足し算や引き算などの計算は、日常生活でも買い物や金銭管理、時間の確認など、さまざまな場面で使われる身近な認知活動です。

一方で、計算プリントに取り組むときには、数字を計算するだけでなく、問題を読み、必要な情報に注意を向け、途中の計算結果を保ちながら答えを導くといった複数の処理が行われています。

では、計算課題にはどのような特徴があり、認知リハビリテーションではどのように活用されているのでしょうか。研究で報告されている内容を踏まえながら、計算プリントの役割と取り組み方について整理します。

計算課題では、さまざまな認知機能を使う

計算問題に取り組むとき、私たちは単に数字を操作しているだけではありません。

たとえば「23+18」という計算を行う場合には、数字を正しく見て、問題の内容を理解し、計算の手順を保ちながら答えを出す必要があります。

この過程には、次のような働きが関係します。

  • 数字や記号を正確に読み取る
  • 問題に注意を向け続ける
  • 計算の手順を一時的に保つ
  • 必要な情報を選びながら処理する
  • 答えを確認する

このように、計算課題は課題の内容や難易度によって、複数の認知機能を組み合わせて取り組む活動になります。

簡単な計算課題と脳活動に関する研究

計算と脳活動の関係については、近赤外分光法(fNIRS)や機能的MRI(fMRI)などを使った研究が行われています。

簡単な計算や読み書きの課題に取り組んでいるときに、前頭前野を含む脳の領域の活動が変化することを示した研究もあります。

特に、東北大学加齢医学研究所などで行われた研究では、簡単な読み書きや計算をテンポよく行う「学習療法」に関連した研究が報告されています。

こうした研究では、難しい問題をじっくり考えることだけが重要なのではなく、本人が無理なく取り組める課題を、一定のテンポで継続することにも意味がある可能性が示されています。

ただし、脳の一部が活動したことだけをもって、「計算プリントをすれば認知機能が改善する」と結論づけることはできません。

脳活動に関する研究と、実際の認知機能や生活上の変化に関する研究は、それぞれ別に考える必要があります。

計算プリントの難易度は、本人に合わせて調整する

計算課題を取り入れるときには、問題の難しさを本人の状態に合わせることが大切です。

たとえば、

  • 1桁の足し算
  • 1桁の引き算
  • 2桁の計算
  • 繰り上がり・繰り下がりのある計算
  • 複数の計算を組み合わせた問題

など、計算課題にはさまざまな段階があります。

同じ「計算」という課題でも、数字の大きさや計算手順によって、必要となる処理の量は変わります。

そのため、最初から難しい問題に取り組むのではなく、現在の状態で無理なく取り組める課題から始め、様子を見ながら内容を調整する方法があります。

正確さを重視するのか、一定時間集中して取り組むことを目指すのか、日常生活で必要な計算につなげたいのかによっても、適した課題は変わります。

計算プリントで取り組めること

計算プリントには、さまざまな形式があります。

正確に計算する

基本的な足し算や引き算などでは、数字を読み取り、計算し、答えを記入する一連の流れに取り組みます。

一定時間、課題に取り組む

時間を決めて問題に取り組むことで、一定時間課題に注意を向け続ける練習として活用することもできます。

ただし、時間を競うことが本人の負担になる場合は、時間を設定せず、正確に取り組むことを重視する方法もあります。

計算の手順を確認する

繰り上がりや繰り下がりのある計算では、途中の数字を確認しながら手順を進める必要があります。

計算のどの段階で間違いやすいのかを確認することで、本人が取り組みやすい方法を考えるきっかけになる場合もあります。

プリントの練習を生活場面につなげる

計算プリントで練習した内容を、実際の生活で活用するためには、生活場面と結びつけて考えることが大切です。

たとえば、買い物での金銭管理が目標であれば、計算問題だけでなく、

  • 商品の値段を確認する
  • 複数の商品の合計金額を考える
  • 支払う金額を準備する
  • おつりを確認する

といった実際の場面での練習を取り入れることができます。

また、料理であれば、材料の分量を確認したり、必要な数を数えたりすることも計算と関係します。

このように、プリント上の計算と、実際の生活で必要な計算は、共通する部分がある一方で、環境や状況によって求められる力が異なります。

リハビリテーションでは、訓練で身につけたことを別の場面でも活用できるようにすることを「般化(はんか)」と呼びます。

計算プリントを生活の目標と結びつけて活用することで、練習した内容を日常生活の場面で使う機会を考えやすくなります。

計算が難しい場合は、別の方法も考える

脳の損傷によっては、計算の特定の部分に難しさが生じることがあります。

たとえば、数字の意味を理解すること、数の大小を判断すること、計算手順を保つことなど、つまずく場所は人によって異なります。

「計算ができない」と感じても、実際には数字を読むこと、計算の手順を覚えておくこと、答えを記入することなど、別の部分に難しさがある場合もあります。

そのため、計算プリントを使うときには、単に正解数だけを見るのではなく、

  • どの部分で迷ったのか
  • どのような間違いが多いのか
  • どの程度の時間で疲れが出るのか
  • ヒントや道具を使うと取り組みやすくなるか

といった点も確認すると、本人に合った方法を考えやすくなります。

必要に応じて、電卓やメモ、計算の手順を書いた紙などを使うことも、生活の中で計算を行うための工夫の一つです。

計算プリントを活用するときのポイント

計算プリントは、認知リハビリテーションで使われる課題の一つです。

取り組むときには、次のような点を意識すると活用しやすくなります。

目的に合わせて課題を選ぶ

「計算の正確さを高めたい」のか、「一定時間集中して取り組みたい」のか、「買い物などの生活場面につなげたい」のかによって、適した課題は異なります。

無理のない難易度から始める

本人が取り組み方を理解でき、無理なく続けられる課題から始めることが大切です。

正解数だけで判断しない

正答数だけでなく、どのような方法で取り組んだのか、どこで迷ったのか、どの程度の疲労があったのかなども、課題を調整するための参考になります。

生活場面とのつながりを考える

計算プリントでの練習を、買い物や料理、金銭管理など、実際に必要な活動と関連づけることで、より具体的な目標を考えやすくなります。

まとめ

計算プリントは、数字を計算するだけでなく、数字を読み取り、注意を向け、手順を保ちながら答えを導くという複数の処理を含む課題です。

研究では、簡単な計算や読み書き課題と脳活動の関係について報告されており、認知リハビリテーションの中でもさまざまな形で活用されています。

一方で、計算プリントの練習を実際の生活に役立てるためには、本人の目標や生活場面と結びつけて考えることが大切です。

「どの計算ができるようになるか」だけでなく、「その力を生活のどこで使いたいか」を考えることで、課題の選び方や練習方法も変わってきます。

計算プリントは、認知リハビリテーションの中で活用できる一つの方法です。本人の状態や目標に合わせて内容を調整しながら、必要に応じて実際の生活場面での練習や道具の活用と組み合わせていくことが、より実用的な取り組みにつながります。

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参考文献一覧

  • 川島 隆太ほか(2005)「音読と計算が認知症患者の前頭葉機能に与える影響」『The Journals of Gerontology: Series A』60(3), 380–384.
  • Nouchi, R. ほか(2016)「音読と簡単な計算を用いた学習療法が、健常高齢者の抑制機能・言語性エピソード記憶・注意・処理速度に与える影響:ランダム化比較試験」『Frontiers in Human Neuroscience』10, 217.
  • Sohlberg, M. M.・Mateer, C. A.(2001)『認知リハビリテーション:統合的な神経心理学的アプローチ』Guilford Press.

 

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